2月4日(日)の午後、深谷で開催された埼玉県獣医師会北支部主催の学術講習会に参加しました。
テーマは「分子標的薬の使い方~イマチニブとトセラニブを上手に使いこなす方法~」で、講師は、日本小動物がんセンターのセンター長であり、米国獣医内科学専門医の小林哲也先生でした。なんと、先日のNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演されています!ご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
人間も動物も、死因のトップは「がん」
ワンちゃんやネコちゃんの寿命が延びた現代において、人と同様に死因のトップは「がん」となりました。
診断機器の充実・診断技術の向上・治療法の発展により、ひと昔前では治らなかった「がん」が治る時代になりました。しかし、人と同様、依然として治らない「がん」も多いことは紛れもない事実であり、実際に死因のトップは「がん」という現状は変わりありません。
完治する「がん」に対して治療を実施することは、誰もが納得するところでしょう。
では、完治する見込みが低い「がん」に対して、何もすることは出来ないのでしょうか?
分子標的薬とは
分子標的薬とは、簡単に言うと「がん細胞の特定の部位にピンポイントで効く薬」であり、がん細胞以外の正常な細胞に対する影響が大きかった従来の抗がん剤と比較すると、副作用の軽減や、効果の点でメリットがある場合があります。
元々は「肥満細胞腫」という特殊な「がん」に対する薬として登場したものですが、ある種の「完治する見込みが低いがん」を縮小させたり、進行を抑えられるというデータが蓄積されてきました。
この作用は、血管新生抑制作用のおかげと考えられています。「がん」細胞は自分が必要な栄養を取り込むため、自分で血管を作りながら増殖します。ちょうど、町を作る時に、まず道路を整備することと同じイメージです。その血管を作ることを阻害することで、増殖を抑えることが出来ると考えられています。
「がん」と共存するという考え方
「がん」細胞は時間とともに分裂増殖して体を蝕み、やがて命を奪います。
その「がん」細胞が増えるスピードを緩められたら、もしくは一時的に増殖をストップすることできたら・・・・体調への悪影響を抑えて、そして生活の質を保ちつつ生きられる期間を延ばすことが出来ます。もちろん、完治するのがベストですが、完治の見込みが低い場合には、「がん」と共存するという考えも良い選択肢だと考えます。
しかし、残念ながらすべての「がん」に対して効果が得られるわけではありません。また、副作用がまったくないわけでもありません。ですが、分子標的薬が登場したおかげで、今まで為す術がなかった「がん」に対して治療することが出来るようになったことは、非常に大きな意味を持ちます。
今回のセミナーでは、分子標的薬の作用メカニズムから使用上のポイントまで、専門医の先生から大変有意義な話を伺うことができました。日々の診療に役立てていきたいと思います。