3月18日、新宿にて開催された学術セミナーに参加しました。前回に引き続き、東京農工大学獣医内科学研究室の井手香織先生によるご講演です。 今回のテーマは「犬と猫の輸血」でした。
血液中に足りなくなった成分を補うため、健康な血液を投与するのが「輸血」ですが、飼い主様に輸血についてお話しすると、いつもこんなご質問をいただきます。
「ワンちゃんやネコちゃんにも、血液型はあるの?!」
実は、あります!!でも、ヒトとはすこし違います。
すべての細胞には、その表面に「抗原」という構造物が存在します。免疫細胞(病原体や有害な成分を排除する細胞)は、この抗原を認識し不必要なものを体から排除します。
血液中で酸素を運ぶ仕事をしている細胞を赤血球といいますが、ヒトの赤血球表面には250種類以上の抗原が存在しており、その代表が「A/B型抗原」です。この抗原の有無により、ヒトではA・B・O・ABの4種類に血液型を分類しています。
ではイヌとネコの場合はどうでしょうか?
実はまだ、すべての赤血球表面の抗原が解明されていません。
イヌの血液型は13種類以上が存在するとされ、そのうちの8つがDEAシステム (Dog Erythrocyte Antigen = イヌ赤血球抗原)と言われる国際分類に認定されています。この中で、輸血に大きく関係する血液型がDEA1.1型とDEA1.2型です。DEA1.1型赤血球に抗体を持つ(体から排除する免疫を持つ)イヌに、DEA1.1陽性の血液を輸血すると拒絶反応が起きてしまうためです。
ネコの血液型は、A・B・AB型の3つに分類する方法が一般的です。O型は存在しません。日本国内では9割以上のネコがA型であるとされ、残りの少数がB型、AB型は極めて稀だとされています。余談ですが、人間もワンちゃんネコちゃんも、血液型と性格に相関性はありません。
ヒトとネコちゃんは、異なる血液型を輸血すると、命に関わる反応が起こります。
ワンちゃんは、初回の輸血に限り、血液型が異なっていても輸血をすることが可能です。ただし、2回目の輸血からは、異なる血液型に不適合となる可能性があります。
では逆に、同じ血液型であれば輸血は安全でしょうか?
実は違います。
先ほど紹介した血液型システム以外にも、まだ確立されていない赤血球膜抗原が存在するためです。このため、血液型だけがいっしょでも不適合反応は生じるリスクがあるのです。
このリスクを回避するため、動物病院では輸血前検査として「クロスマッチ試験」を実施します。これは、実際に血液製剤をワンちゃんネコちゃんの体に入れる前に、試験管のなかでレシピエント(輸血を受ける患者)の血液と血液製剤を混ぜ合わせる検査です。このクロスマッチ検査で不適合反応がでないか確認をしてから輸血を開始します。
輸血という処置は、実施前の検査・血液製剤の保存・実際の投与において、とても繊細な管理が必要です。今回のセミナーでは、輸血の管理方法について詳細に学ばせていただきました。
明日以降の診療に役立てていきたいと思います。